社会変動論

~交差性の視座から共生を構想する~

 

※2023年度に塩原が塾派遣留学でゼミを開講しなかったため、2024年度のゼミは新3年生が人数的には多くなります(休学・留学等で来年度も残ってくれる先輩もいると思います)。

 

 このゼミでは、近代から現代に至る産業構造の転換、技術革新、資本主義の発展、グローバル化、地球環境の変動と、それらにともなう人々の価値観、文化、政治、社会の変容を地球的な視座から考察する「社会変動論」と呼ばれる社会学の領域を扱います。多様な現れ方をして相互に無関係に見える様々な社会現象は、実は互いに結びつき影響を与えあっていると考えることができます。この「インターセクショナリティ(交差性)」という視座を重視し、日常をそれまでとは違った現実として捉えなおし、そこからより良い「共生」のあり方を構想する、オルタナティブで批判的な想像力を学生が身に付けるお手伝いをするのがこのゼミの目標です。とりわけ現代世界における共生をめぐる4つの問題領域、すなわち「移民・先住民族」「ジェンダー・セクシュアリティ」「階層・格差」「人新世と地球環境」に注目し、それらが互いにどのように交差しているのかを念頭に置きながら学び、実践していきます。

 具体的には、以下のような活動を予定しています。授業は週2コマ、異なる学年のゼミ生が合同で実施します。あくまで現時点での予定であり変更する場合がありますが、拘束時間と作業量がこれ以上大幅に増えることはありません。

 

◇文献講読ワークショップと3年次/卒業制作(「本ゼミ」)

 上記4つの問題領域に関する入門書・専門書・学術論文等(日本語)を、1つの学期(春・夏休みを含む)に書籍4冊分の分量をめどに読み、小課題を作成・提出します。授業ではそれに基づいてグループ討論・プレゼンテーションを組み合わせたワークショップを実施します。

 それに加えて、すべてのゼミ生が個別のテーマを選び、卒業制作に取り組みます。それはいわゆる学術論文(卒論)である必要はなく、映像作品、ノンフィクション・エスノグラフィ、アート・文芸作品、パフォーマンス・身体表現、シンポジウム・イベントなど、さまざまな形式で表現することができます。ただしいずれの形式であっても、ご自身で立てた計画に従い、2年間かけて準備・実践していただきます。卒業制作は個人で取り組むこともできるし、他のゼミ生との協働で取り組むこともできます。ゼミ1年目(3年次)の年度末に中間成果をまとめて発表・提出し(3年次制作)、それをもとに4年次の年度末までに完成させていただきます。

 

◇ フィールドワーク

 このゼミが実施する「フィールドワーク」は、社会学的調査ではなくサービス・ラーニング教育プログラムとして行うものです。趣旨・内容は下記を参照してください。なおフィールドワークはこのゼミにおいては必修です。活動頻度や時間はフィールドごとに異なりますが、おおよそ週1回、2~4時間程度です。またフィールドワークの一環として、各フィールドにおけるさまざまな企画(「プロジェクト」)を立案・実行することがあります。

 

 以上のように、このゼミは教室内での授業と大学外での実践を連関させることで、より深い学びの機会を創造することを目指しています。また狭義の学問の型に固執せず、学生自身にとって意味あるかたちで学びの成果を表現してもらおうとしています。結果的に、他のゼミよりも授業外の拘束時間は長くなり、皆さん自身で考えなければならないことも増えます。その意味で、単位取得における効率性(「コスパ/タイパ」)を重視する人には向かないゼミかもしれません(もちろん、就職活動など、ゼミに十分に時間をかけられない個別の事情がある場合は柔軟に対応します)。それでもこのゼミを選んでくださるのであれば、私もなるべく時間をかけ、より望ましいあり方を常に考えながら、みなさんと向き合っていきたいと思います。

 

 

その他よくあるご質問については、「Q&A」ページ  をご参照ください。

 


フィールドワーク

〈塩原ゼミでの「フィールドワーク」〉

フィールドワークによる社会学的質的調査は、現場の出来事や人々との出会いと関わりを通じて、社会的現実の複雑さを理解することを目指す。それは学術研究のみならず、学生が他者との対話の経験を重ね、複雑な社会的現実への想像力を養うための教育機会としても活用できる。また、教室での一方的な知識の伝達からの脱却を目指すアクティブ・ラーニングを大学教育に導入する重要性も認識されている。

 そこで本研究会では、学外での社会学的質的調査と学内の授業での討論・文献購読等を連動させつつ、ボランティア等の社会貢献活動を授業に取り入れるサービス・ラーニング教育プログラムを実施することを通じて、学生が社会の現場で生じる複雑な現実とその背景を理解し、自己と社会の関わりを省察し、より良い社会を構想する知的能力と想像力を高めるための教育機会を提供する。

 長年の協力関係にある横浜市・川崎市の公立学校や NPO 等と協働して参画・実施する、外国にルーツがあったり生活保護家庭で育った子ども・若者への支援活動に、ゼミ生は2年間、継続的に参加する。学生は活動に主体的・継続的に関わり、子ども・若者や他の支援者と信頼関係を築き、参与観察的な方法を通じて活動現場で起きる現実へと接近する。学生はその経験を毎回フィールドノーツに記録し、授業内での発表・討論によって省察し、文献講読によって得た知識で再解釈していく。

 

この活動から期待される成果は、以下の通りである。 

 

 ①社会問題の解決に取り組む公的支援の現場を経験し、その経験を記録、解釈、記述する社会学的手法を習得することで、学生が多様な社会的現実を理解するための視座・方法・想像力を育み、新たな創造性を生み出す人材へと成長するための教育機会を提供する。

②サービス・ラーニング教育におけるフィールドワークの手法の活用の好事例を提供し、大学教育の発展に寄与する。

③大学の地域連携という観点から、学部教育を通じた子ども・若者への公的支援への貢献のモデルを提案する。

 

 

〈2022・23年度活動内容〉

 

※2024年度も、原則として以下の活動を引き続き実施する予定です。ただし、協働する団体の都合等により活動内容が変更される場合があります。

 

ゼミ生は以下の場所から原則として1か所を選び、2年間継続して活動に参加する。

※活動時間は変更される場合がある。また開催されない週もある。

※2か所以上を掛け持ちすることも可能

 

 1.社会福祉法人青丘社 学習サポート

(1)活動内容

 経済的に困難を抱えた小学生・中学生(外国につながる子どもを含む)の学校の勉強のサポート(原則として日本語で行う)

(2)活動場所

 ①川崎市ふれあい館

  〒210-0833 川崎市川崎区桜本1-5-6

 ②京町いこいの家

  〒210-0848 川崎区京町3-12-2

⑶活動日時

  毎週火・木曜日:午後4時30 分~6時(小学生)

          午後6時30分~9時(中学生) 

  ※いずれかの会場・曜日を選択して、原則として週1回参加する

  ※上記以外の曜日の活動に参加する場合もある

(4)主催団体

社会福祉法人青丘社

 

2.鶴見よる教室・外国につながる若者の居場所づくり活動

 (1)活動内容

 a) 鶴見よる教室

 ・近隣の外国につながる小中学校・高校生等を受け入れ、入試等に向けた学習支援を行う

 ・「学習支援」は広い意味で捉える(勉強に向けた動機付け、各種相談、心理的支え、等)

 b) 外国につながる高校生・若者の居場所づくり活動

 ・「地域の居場所づくり」をテーマに、参加する中学・高校生、大学生、社会人等と話し合って活動を企画して進める。

 ・鶴見国際交流ラウンジ主催イベントへの参加

 

(2)活動場所・時間

鶴見国際交流ラウンジ

〒230-0051 横浜市鶴見区鶴見中央1-31-2 シークレイン2階

毎週土曜日17 時~20 時30分頃

 

(3)協働団体

横浜市鶴見国際交流ラウンジ

慶應義塾大学の学生団体/等

 

3.県立川崎高校日本語・学習支援教室

(1)活動内容

 川崎市周辺の県立高校に通う、外国につながる生徒の日本語・学習支援を行いながら交流し、生徒たちの「メンター」として寄り添う

(2)活動場所・時間

神奈川県立川崎高校

〒210-0845 神奈川県川崎市川崎区渡田山王町22-6

土曜日10時頃~16 時頃まで(準備・後片付け・振り返り含む)

※開催されない週もあり

(3)主催団体

多文化共生教育ネットワークかながわ(ME-net)

 

4.慶應義塾大学協生環境推進室「協生カフェ」

(1)活動内容

協生環境推進室が学生と協力して実施する、皆が自由に語ることのできる場づくりを目指した「協生カフェプロジェクト」に参加する。2023年度は、活動団体のサポートとしてゼミ生が各活動に参加している。

(2)活動場所・時間

下記URL参照

https://www.diversity.keio.ac.jp/news/2023/08/0801.html

 

 

 

 



指導教授について

塩原良和(しおばら よしかず)

 

1973年埼玉県生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(社会学)。日本学術振興会海外特別研究員(シドニー大学)、東京外国語大学外国語学部准教授などを経て、現在、慶應義塾大学法学部教授。専門領域は国際社会学・社会変動論、多文化主義・多文化共生研究。オーストラリアと日本を主なフィールドとして、多文化化する社会に関する研究を進めている。

 

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